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最高裁判所大法廷 昭和27年(あ)5316号 判決

本籍 朝鮮慶尚南道固城郡介川面羅仙里八〇二番地

住居 愛知県知多郡河和町大字河和字北田面九二番地

軽飮食店営業 木下英俊こと李在九 大正九年三月一五日生

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人芦田浩志の上告趣意について。

論旨は家庭裁判所は憲法七六条二項にいわゆる特別裁判所に該当し、従つて児童福祉法六〇条の罪について家庭裁判所の専属裁判権を定めた少年法三七条一項四号の規定は憲法七六条二項に違背し無効であると主張する。

しかし、すべて司法権は最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属するところであり、家庭裁判所はこの一般的に司法権を行う通常裁判所の系列に属する下級裁判所として裁判所法により設置されたものに外ならない。尤も裁判所法三一条の三によれば、家庭裁判所は、家庭に関する事件の審判及び調停並びに保護事件の審判の外、少年法三七条一項に掲げる罪に係る訴訟の第一審の裁判を所管する旨明記するに止まり、そしてその少年法三七条一項では同条項所定の成人の刑事々件についての公訴は家庭裁判所にこれを提起しなければならない旨規定さているけれど、それはただ単に第一審の通常裁判所相互間においてその事物管轄として所管事務の分配を定めたに過ぎないものであることは、裁判所法における下級裁判所に関する規定、殊にその種類を定めた二条、及びその事物管轄を定めた一六条、一七条、二四条、二五条、三一条の三、三三条、三四条等の規定に徴して明らかである。現に家庭裁判所は同裁判所で成立した調停等に対する請求異議の訴訟についても、家事審判法二一条、一五条、民訴五六〇条、五四五条に基ずき第一審の受訴裁判所として専属の管轄権あるものと解されているのであつて、この事は家庭裁判所がもともと司法裁判権を行うべき第一審の通常裁判所として設置されたものであることに由来するのである。それ故右と反対の見地に立つ論旨は採るを得ない。

よつて刑訴四〇八条、一八一条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己)

○昭和二七年(あ)第五三一六号

被告人 李在九

弁護人芦田浩志の上告趣意

原判決が維持した第一審判決は憲法に違背して構成された裁判所によりなされたものであつて破棄を免れない。即ち憲法第七十六条第二項によれば特別裁判所はこれを設置することが出来ないことになつている。ここに特別裁判所とは特別の身分を有する者又は特別な種類の事件だけに対して裁判権を行う裁判所をいうのであるが、家庭裁判所はこのような意味で特別裁判所であると考える。学説によつては、特別の事件又は特別の身分を有する者に対してのみ裁判権を行う裁判所であつても、その裁判に対し通常裁判所えの上訴が認められ、又通常裁判所の裁判官と同じ資格を有する裁判官によつて構成される裁判所は特別裁判所でないとするものもあるが、憲法七六条第二項後段に行政機関は終審として裁判を行うことが出来ないとある文理と対比すれば特別の人又は事件について裁判を行う特別裁判所は下級審としてもこれを設置することが禁ぜられていると解すべきものである。

従つて児童福祉法六十条の罪について家庭裁判所の専属裁判権を定めた少年法第三十七条第一項四号の規定は憲法第七十六条第二項後段に違背し無効であつて、無効な規定に基く裁判所(本件第一審裁判所は家庭裁判所であることは記録によつて明らかである)のした第一審判決及これを維持した原判決は破棄を免れない。

以上

別紙

児童福祉法違反事件

(名古屋家庭裁判所 昭和二七年五月一日判決)

本籍 朝鮮慶尚南道固城郡介川面羅仙里八百二番地

住居 名古屋市中村区名楽町一丁目百七十番地

飮食店ゑびすや経営 被告人 木下英俊事 李在九

大正九年三月十五日生

主文

被告人を懲役三月に処する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人は名古屋市中村区賑町三十三番地に於て軽飮食店を経営して居るものであるが昭和二十六年八月下旬頃家出中の児童である○羽○子(満十五歳)○出○子(当時満十四歳)の両名を同店に住込ませ同女等が売淫によつて得た金額の一部を其の食費、宿泊料等の名義で被告人が取得する旨双方話合の上で

第一、○羽○子をして同月三十日から同年九月十四日頃までの間同区○○○町○丁目○十○番地○○ホテル外数ヶ所に於て十数名の客に売淫せしめ

第二、○出○子をして右第一と同じ期間に前記○○ホテル外数ヶ所に於て十数名の客に売淫せしめ以て児童に淫行をさせる行為をしたるものである。

右の事実中年令の点は○羽○子の戸籍抄本及び○出○子の寄留記載事項証明書の記載に拠て之を認め其の余の部分は証人○羽○子の当公廷に於ける証言、

被告人の当公廷に於ける供述、

検察事務官に対する被告人の供述調書、

司法警察員に対する○出○子の供述調書、

を綜合して認める。

被告人は判示児童の淫行を強要したものではないと弁疏するけれども淫行を予見し或は黙認して自己の施設内に住込ませ室代又は食費等名儀の如何を問はず淫行による稼高に比例して稼高の一部を自己に支払はしむるが如きは児童を使用して淫行をさせた者であると言はねばならない。

仍て児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項を適用し所定刑中懲役刑を選び刑事訴訟法第百八十一条に則り主文の如く判決する。

(裁判官 中林利一)

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